5年後の晩餐~あったかい非常食レビュー~
東日本大震災から5年が過ぎた。
そして今現在、熊本や大分が地震により甚大な被害を受けている。
私は北海道で釧路沖地震を経験しているし、東日本大震災のときはビッグサイトにいて帰宅難民になったり仕事が大変になったりそれがもとで体調がおかしくなったりした。
ほんと他人事じゃないのである。
東日本大震災のときに身を寄せたホテル内のコンビニでは普段ぜったい売り切れないだろうものも売り切れていて、つまりは普段ぜったい食べないだろうものを食べる人たちでごったがえしていた。黙ってカットフルーツ盛り合わせを食べてるおじさんとか正直怖かった。
東京でも水やカップラーメンが売り切れたりして、これにも恐怖を感じた。
備えは大事なんだ。
2016年になり、東日本大震災の直後に買った非常食の賞味期限が切れた。
切れてから食べるのはどうかと思うけど、今回は参考のために食べてみた。
今は非常食の購入を検討している人もたくさんいるだろうし、少しでも参考になればうれしい。
それに正直なところ高かったので食べてみないと気がすまない。
い、言っとくけど、賞味期限切れるのを楽しみになんかしてなかったんだからね!
もったいないからしかたなく食べてあげるんだからね!
わくわくなんか、ぜったいしてないんだからね!!
「あったかいごはんが食べたい」
避難されている方がテレビで言っていた言葉だ。
あったかいごはん。
日本人にとっては「おかあさん」と同じくらいのやすらぎを与えてくれる響きなんじゃないだろうか。
次点は「あったかいおふろ」と「あったかいおふとん」。
避難している状況でおふろ・おふとんは望みが薄いし、おかあさんも必ずしもみんなのそばにいてくれない。
でもあったかいごはんなら自分で用意できる。
極限状態だからこそおいしいものを食べられるよう備えておけば生きる希望の足しになる。
非常食のチョイスは自分が避難している状況を本気で想像しなければきっと後悔するから慎重に考えたい。
そしてきっと、あったかいごはんは正解だ。
あったかくなる非常食はどれだけあったかくなれるのか
これが私が5年前に買ったあったかくなる非常食「マジックライス」だ。
いわゆる「アルファ米」というごはんと「モーリアンヒートパック」というメキシコのプロレス技みたいなネーミングの発熱剤、それらを入れる専用の袋のセットで、7食 5,000円くらい。
なんとなく高く感じるのは今あったかい食べ物に困っていないからなのだろうか。
発熱剤に水をかけることで熱が発生し、その熱を利用して袋の中でごはんをあたためることができるらしい。
さっそく試食して、褒めそやしたり文句を言ったりしていこう。(ステマではありません)
どんだけあったかくなれるのか、見せてもらおうか、その性能とやらを…!
勉強もごはんも予習が大事
最初にわかったことを書いておくと、アルファ米調理は一度予習しておくのが正解だ。
なにしろパッケージなどの説明書きが多すぎるのだ。
非常時に理解するのはたぶんきびしい。
でも知っていれば怖くない。
ケガをしたりせっかくのごはんを失敗してムダにしないためにもきちんと予習をしておこう。
事態を複雑にしている一番の原因は、マジックライスが4WAYで調理できてしまうことにある。
なんと優れもののマジックライスは、レンチン・加熱剤・お湯・水のどれでも調理OKなのだ。
必要なもの、手順、調理時間は当然バラバラ。
今回はすべての方法を同時に試したのでものすごくややこしいことになった。
まとめると以下の方法でおこなった。
ありすぎる! マジックライスの調理法4つ
1.レンチン
所要時間:3分
ポイント:水、器、計量カップ、電子レンジが必要。「1番美味しい作り方♪」とされていて「そりゃな」と思う
2.お湯
所要時間:15分
ポイント:お湯さえあればOK! これがいちばん現実的
3.加熱剤
所要時間:15分
ポイント:水さえあればいいしお湯と同じ時間でできるけど、7食セットなのに加熱剤は2個しかないことに食べる段になって気がついた
4.水
所要時間:60分
ポイント:水さえあればいいけどびっくりするくらい時間がかかる。 当然あったかくはならない
では順に試食のようすを見ていこう。
1.元も子もないレンチン調理
まず、お湯は不要だけど電子レンジは必要な「1番美味しい作り方♪」でエビピラフを作ってみた。
お湯は不要だけど計量カップはあったほうが便利かも(どうせあるでしょ、電子レンジのある状況なら)。
器に移して水を加えて混ぜ、レンジで3分。
電子レンジが必要という非常時にはものすごく高いハードルはあるが、最短でできる魅力いっぱいの作り方である。
電気があっておなかがモウレツにすいているときにおすすめの方法だ。
当然ながらほっかほかにできあがった。
「おかあさん」のイメージよりは確実に熱くできてくるのでやけどには注意してほしい。
味はかなり濃い。
少量でもガツンとくる満足感にあふれた味付けではあるけれど、非常時にのどが渇くのは少しいただけないと思う。
ただ、すごくおいしい。
こどもがよろこぶおいしさである。
「たまに食べるとおいしい」と名高いえびピラフだけに、非常食化には大賛成したい。
2.ALL YOU NEED IS OYU! お湯調理
続いては、お湯さえあればほかには何もいらないお湯調理。
ごはんの袋の中の線までお湯を入れるだけでいいので計量もいらない。
お湯が作れる状況であればカップ麺も作れてしまうので、いかにカップ麺を越えるかが課題だろう。高いんだから越えてもらわなきゃ困る。
とにかく感動したのが開封した時のにおいだった。
お湯を入れる前から食欲をそそる見事な「カレー味」のにおい。
カレーのにおいとは別ものでありながら同じくらいのパワーで食欲を刺激する「カレー味」のにおいは、えびピラフ同様「これ絶対おいしいよな」という予感を感じさせた。
お湯を入れてその予感はいっそう強まったが、15分たって袋を開けたときの私はまったく違う心境になっていた。
……なんかごめんなさい。
私の中の道徳がそうつぶやいた。
浮かれ気分でお湯を入れて「おいしくできるかな♪」とか騒いで15分後は家じゅうえげつないほどのカレー味臭。
これもし本当に避難してたら、もし周りに避難している仲間がいたら、全員にドライカレーを配らないと許されないくらい罪深いにおいだ。
お前のおかげでカレーが食べたくなった! 責任取れ! と怒られ、しまいにはドライカレーをめぐって人々が争い合ってしまうんじゃないか……と映画「宇宙戦争」で車を奪われた主人公のような気持ちになって少し途方に暮れた。
いや、美味しいんですよ。
やっぱりカレー味は「食べさせる」仕事をしてくれる。
非常時は食欲が湧かないこともあるだろう。
でもこれなら食欲が刺激されてもりもり食べられそうだ。
油分も感じられるのでごはんだけでも満足感があるし、小さいながらもきちんと鶏肉が入っていたりして、カップ麺とくらべてもいろいろ優秀だなと感じた。
良すぎるにおいは水調理にすれば抑えられると思うので、争いを招きたくない人はそっと水調理しよう。
3.この化学反応がすごい! 加熱剤調理
次はいちばんのお楽しみコーナー、加熱剤調理。
本当にあつあつになるの?
ごはんの下に置いた加熱剤は、ケーキ箱の中の保冷剤くらい存在感がない。
あれほど頼りないものもないけど、この加熱剤はこれからざらざらごはんをふっくらにするというのだからちょっと半信半疑である。
そして結論から言うと、ひもを引っぱってあっためるお弁当的なお気楽気分ではけっしてやらないでほしい。
ちょっと恐ろしくなるくらいの化学反応を目撃することになるからだ。
水を注いだら怖いくらいの勢いで沸騰しはじめる。
ぐつぐつ音がすごいし湯気ももうもうと出る。
温度は95℃くらいまで上がるらしいので、私みたいにうかうかしている人間にはとてもあぶない。
そんなことも知らずあのお弁当気分でいた私はすっかり化学反応のパワーにやられてしまった。
パニクらないためにもこれはぜひ、こうなるって知っておきたい。
15分たった。
取り出してできあがり…なのだがここで第二の落とし穴に出会う。
専用袋を開けようと思うんだけど……これ中めっちゃ熱いよね。
15分たっても加熱剤がまだシューシュー言ってて専用袋の湯気用の穴から湯気が止まる気配がない。
2回くらい手をつっこみかけたけどそこは人間らしい理性でぐっとこらえ、けっきょく文明の利器・トングでごはんをゲットしたとき、どこかから「災害時にトングなどない!」というお叱りの声が聞こえてきた気がしました……。
ともあれ無事ごはんをゲットした人間は猛然とスプーンでごはんをかき混ぜ、大豆ひじきごはんができあがった。
付属のスプーンは混ぜるにはちょっと短いけどけっこう丈夫な感じで、一袋に一本入っているので災害時に重宝しそう。
7食すべてを食べれば7本のスプーンがそろい、なんでもひとつ願いが叶う可能性にも期待したい。
味付けはというと、すごく薄い。
具が大豆とひじきという地味さなのでしかたがないのか。
えびピラフをおかずにして食べたらちょうど良い塩梅だった。
肝心の炊き加減は、想像以上に良い。
レンチンにくらべると多少もさっとするがほこほこな感じもありむしろ私は好きだ。
できたてのあったかさもちょうど良くてレンチンよりふだんの炊飯器のごはん感が出ている。
加熱剤調理でこれだけのクオリティのものがあったかく食べられるならうれしい。
アルファ米の素晴らしさを実感できた。(ステマじゃないです)
4.エコ&スロー! 水調理
問題の水調理には、アルファ米の資質を試すべく白米をチョイスした。
もしこれがおいしければアルファ米は無敵だ。
寝起きのすっぴんで原宿を歩いてもきっとスカウトされるだろう。
ネックは60分という待ち時間だが、個人的に7種類の味の中では一番できあがりが待ち遠しくないのでこれにしたという説もある。
みなさんも一番待ち遠しくないやつを水調理するといいと思う。
ひとくち食べる。
できてるできてる! 炊けてる!
冷ごはんだけど「炊けてる」と感じた。
冷蔵庫に入ってる冷ごはんのような硬さはなく、あったかくなくても全然いける。
ちょうどコンビニのおにぎりのような「あっためなくていい」具合。
しかし、ふたくちめでまたも事件が起きた。
ふたたび誰かが私に呼びかけてきたのだ。
この味、知ってるよ!
あれだよあれ、小さい頃によく食べた、あの味!
……そう、たしかになぜだかなつかしい。
よく食べた味がする……
そう、あの味だよ!
仏壇に供えたごはんの味だよ!
呼びかけてきたのは「ご先祖様が守ってくれる」とかいう理由で仏壇に供えたごはんをよく食べさせられていた幼いころの私だった。
あの味がしたのだ。
ちょっと和室のにおいの染みたような、不思議に甘い味のするあの冷ごはんの味。
美味しいんだけど、水だけでこれだけのクオリティのごはんが食べられるなんてすごいと思うんだけど、なんかやっぱ、縁起悪い……。
ちょっとへこんだ。
でもどうだろう。
逆に考えれば、非常時にご先祖様のことを思い出すきっかけになるし、そういう困った時こそご先祖様に思いをはせるべきなのではないか。
白米を食べご先祖様に祈りをささげながら地面に7本のスプーンを刺す自分が目に浮かぶ。
そして気付く。
そうだ、非常食がなくなった。
こうして、私はマジックライスをリピ買いした。
結論:あったかい非常食は正解。
総評:アルファ米はどの調理方法でもきちんとおいしくできるのが良いところ。値段の高さは否めないけど想定外のことが起こるであろう非常時にはぜったいにありがたく思うはず。米派なら迷わず備えよう。
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